消化性潰瘍(十二指腸潰瘍)

潰瘍の内視鏡写真

胃・十二指腸潰瘍とは

お腹の病気としてよく耳にする胃潰瘍、十二指腸潰瘍は、併せて消化性潰瘍と呼ばれます。
様々な原因により、胃や十二指腸の組織が潰瘍になった状態です。
この胃・十二指腸潰瘍は年齢によって発症率に差があり、若い人は十二指腸潰瘍を発症することが多く、中年以降は胃潰瘍を発症することが多くなります。

胃・十二指腸潰瘍の原因

原因としては、その7~9割にヘリコバクター・ピロリ菌が関係していると言われています。
以前日本人の8割が感染しているとされてきましたが、現在は5割ほどに減少したとみられています。
このピロリ菌は胃酸のような強い酸性の中で生き延びるため、胃の中でアンモニアを作り出し、周辺の酸を中和する機能を持っています。
その影響により、防御因子である粘膜の粘液が減り、潰瘍を発症させる要因になります。
またピロリ菌自体も胃粘膜のたんぱく質を傷つける毒素を出しており、さらにそれを防御するために白血球が集まってきて、胃の粘膜を傷つけるということも引き起こされてしまいます。

一方、現在では衛生環境の改善とピロリ除菌の治療の普及のため、ピロリ菌を原因とする潰瘍の頻度は減少してきています。
また、ピロリ菌以外に多い原因として、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服薬や坐薬があります。
商品名としてはロキソニン、アスピリン、バファリン、ボルタレンなどがあげられます非ステロイド系消炎鎮痛剤はプロスタグランジンという胃粘膜の防御因子の産生を抑制します。
この非ステロイド系消炎鎮痛剤を長期間内服していると、胃粘膜の防御能が下がり、胃・十二指腸潰瘍になってしまいます。

原因の大半がヘリコバクター・ピロリ菌とされています。

胃・十二指腸潰瘍の症状

胃潰瘍の自覚症状で最も多いのが、みぞおちの痛みです。
この痛みは食事中から食後に起こることが多いとされています。
一方、十二指腸潰瘍の場合は、空腹時に心窩部痛を訴えることが多いとされています。
その他、胃もたれ、胸焼け、吐き気、嘔吐、食欲不振などを訴えることもあります。
特に強い自覚症状を認めない患者様もいます。
潰瘍が進行すると、その潰瘍部分から出血潰瘍から出血したり、穴が開いたり(穿孔)することがあります。
特に出血はタール便という黒い便が出るのが特徴的です。

消化性潰瘍の検査と診断

上述の症状があれば消化性潰瘍を疑い、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
また、鑑別疾患を除外する目的で、採血や腹部CT、腹部超音波検査などを行う場合もあります。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)では、胃潰瘍の状態や出血の有無などを観察します。
また、潰瘍部位から出血していればその場で止血したり、悪性疾患などが疑われる場合に組織を取って調べたりすることもあります。
当院では鎮静剤を使用しての胃カメラを行っており楽な検査を目指しています。

消化性潰瘍の治療

胃酸による粘膜組織障害を抑えるため、胃酸分泌を抑制する薬を内服します。
具体的には、プロトンポンプ阻害薬を用いることが多くなっています。
この他にも胃粘膜の防御因子を増強したり、胃の運動を活性化したりする薬を用いることもあります。

非ステロイド系消炎鎮痛剤が原因の時は内服薬の変更や中止を行います。
またピロリ菌感染がある場合にはピロリ菌除菌をお勧めします。
この菌に感染していると、繰り返し潰瘍が再発することが知られていますし、慢性胃炎や胃がんの原因になることもわかっています。
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌の方法としては3種類の内服薬を用います。
ひとつはプロトンポンプ阻害薬、そして「アモキシシリン」「クラリスロマイシン」のふたつの抗生物質です。
これらを1日2回、7日間連続して服用します。
これで約80-90%の方が除菌に成功しますが、不成功となった場合は二次除菌、三次除菌を行っていきます(二次除菌までが保険適用で、三次除菌以降は保険適用外となります)。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群は、大腸カメラなどで特に異常は認めないもののおなかの痛みや張りなどの不快感、便秘や下痢などの便通異常が続く病気です。
命に係わる病気ではありませんが、症状のために日常生活に支障をきたすこともあります。
おなかの痛みや、下痢が続いたり下痢・便秘を繰り返す、お腹にガスがたまるなどのお腹の様々な症状がありますが、いずれも排便・排ガスをすると症状は軽くなることが多いのが特徴です。

過敏性腸症候群の症状

過敏性腸症候群は、大きく分けて「下痢型」、「便秘型」、「交代型」があります。
下痢型は、お腹の痛みは違和感があり、慢性的な下痢が続くタイプです。
会社での会議や、学校での授業中にトイレに行きたくなることも多く、日常生活に支障をきたします。
便秘型は、腹痛などが続いて排便したくなるのですが、慢性的に便秘状態であり、不快な気分が治まりません。
時々便通が起こりますが、その際には腹部が苦しくなることが多く見られます。
交代型は下痢と便秘が交互に繰り返され、お腹の状態が安定しません。

過敏性腸症候群の原因

確固たる原因は明らかになっていませんが、何らかのストレスが関係しているとされています。
ストレスによって不安状態になると、腸の収縮運動が激しくなったり、知覚過敏の状態になったりします。
この強い状態が過敏性腸症候群の特徴です。
ストレスや緊張が強い時期に悪化し、ストレス性の要因が和らぐと症状も軽快することも特徴の一つです。
また感染性胃腸炎にかかった場合、回復後に過敏性腸症候群になりやすいといわれています。
感染によって腸の粘膜が弱くなったり腸内細菌の変化も加わり、運動や知覚がおかしくなるようです。

過敏性腸症候群の検査・診断

過敏性腸症候群の国際的な診断基準としてRome基準があります。

Rome Ⅳ基準による過敏性腸症候群の診断基準

  • 腹痛が6ヶ月以上前から出現しており、最近3か月では週に1回以上症状を認め、
  • 下記の2項目以上を満たす場合
    • 排便により症状がやわらぐ
    • 症状とともに排便の回数が変わる
    • 症状とともに便が柔らかくなったり硬くなったりする

この病気は、主にストレスから腸が慢性的な機能異常を起こしている状態で、炎症や潰瘍などの器質的な病変を伴わない疾患です。
従って、大腸がんや炎症性腸疾患などがないかを大腸カメラなどで調べる必要があります。
また症状により、血液検査やCT検査、腹部超音波検査などを行います。
甲状腺機能障害や糖尿病性神経疾患などの原因が隠れていないかも確認します。

過敏性腸症候群の治療

不安、緊張、ストレス、疲労などに気を付けることが大切です。
不安やストレスが無くても、暴飲暴食、不規則な生活が原因となることもあるので、過敏性腸症候群が見られたときは生活習慣の見直しを考えてみることが大切です。
治療に関しては、まず生活習慣を見直します。
食生活が乱れている方は、バランスのとれた食事を心がけます。
睡眠時間も適度にとり、生活リズムを整えます。
食事は特に、油っこい食べ物や香辛料・アルコール・コーヒーなどは気を付けてください。
その上で、腸内の状態を整えるための薬物療法を行います。
これを飲んでおけば症状が治るという特効薬はありませんが、治療薬は数種類あり、一緒に合う薬を見つけていきます。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる原因不明の病気であり、大腸のびまん性炎症性疾患です。
病変は直腸から連続的に、そして口側に向かって広がる特徴があります。
病変の広がりにより大きく3つのタイプ、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分かれます。
右側あるいは区域姓大腸炎などの分類もあります。
また症状の強さから軽症・中等症・重症・劇症に分けられます。
お薬を飲んですぐ治るものではなく、付き合っていく必要のある病気ですが、適切にコントロールされていれば、症状なく普段通りの生活を送ることができます。
発症のピークは20代ですが、性別や年齢に偏りなく発症し、日本では1990年代以降、急激に患者数が増え続けています。
潰瘍性大腸炎は厚生省から難病特定疾患に指定されています。
当院は難病指定医療機関であり、難病指定医による診療を受けられます。

潰瘍性大腸炎の症状

代表的な症状としては、下痢・血便・腹痛です。
このような症状が慢性的に、あるいは繰り返し起こります。

潰瘍性大腸炎の原因

今のところ原因がはっきりとはわかっておらず、このため発症すると長期間の治療が必要な慢性の病気です。
近年、潰瘍性大腸炎の仕組みが少しずつ解明され、遺伝や環境、腸内細菌の異常などの要因が関わり、体内で免疫異常が起こり発症することがわかってきました。
衛生状態が整った先進諸国に多い病気で、欧米型の食生活も関与していると考えられています。

潰瘍性大腸炎の検査・診断

潰瘍性大腸炎が疑われるときは、内視鏡を用いて腸内の状態を確認することが大切となります。
なお、この病気は長期に及ぶことが多いので、炎症による発がんのリスクもあります。
そのため、特に目立った症状がないときでも、定期的に血液検査や内視鏡検査を行います。

潰瘍性大腸炎の治療

原則的には薬物による内科的治療が行われます。
しかし、重症の場合や薬物療法が奏功しない場合には手術が必要となります。
現時点では潰瘍性大腸炎を完治に導く内科的治療はありませんが、腸の炎症を抑えるのに有効な薬物療法は存在します。
治療の目的は大腸粘膜の異常な炎症を抑え、症状をコントロールすることです。
多くの場合、内科的治療で症状は改善しますが、ケースによっては大腸全摘術などが必要となることもあります。

潰瘍性大腸炎の写真

潰瘍性大腸炎の写真
血管透見が消失し、粘膜は発赤・小黄点を認めます。

大腸がん

大腸がんとは

大腸の粘膜から発生する悪性腫瘍です。
がんは全身の様々な臓器にできますが、その中でも大腸がんは患者数、死亡数ともに上位を占めています。
大腸がんも早期に発見できれば死につながる病気ではないため、大腸カメラなどの検査が非常に大事になってきます。

大腸がんの症状

大腸がんも早期では症状はほぼ認めません。
進行すれば症状が出てくることがあります。
出血は比較的早めに出てくる症状です。
肛門に近いがんの場合、痔からの出血と間違うようなきれいな出血を認めることがありますので、出血があれば大腸の検査を受けてください。
大腸がんから出現する便が細くなる・残便感がある・腹痛が出現・体重減少などの症状はかなりがんが進行していると考えられます。

  • 最近、便が細くなったり、小さくなった気がする
  • 便に血が混じっている
  • 便秘や下痢が続いている
  • 残便感がある
  • 下腹部が膨らんできた
  • 腹痛が治まらない
  • 貧血気味だ
  • 体重減少

など

大腸がんの原因

大腸がんの発生には遺伝的因子によるものもありますが、特に多く見られるのが生活習慣などの環境因子が原因となるケースです。
加工肉などの摂取や過度の飲酒・タバコはリスクを高めると言われています。
喫煙されている方は禁煙を強くお勧めします。
肥満の方も、体重の適正化に努めてください。

大腸がんの検査・診断

大腸がんは、まず便潜血によって気づくケースがとても多いと言われています。
患者様自身が便の状態によって分かることもありますが、定期的に大腸がん検診を受け、肉眼では分からない程度の潜血も調べておくことが大切です。
潜血が陽性であれば大腸カメラや大腸CTといった検査を行います。

ただ、便潜血検査では診断のできない大腸がん(早期がんの半分近く。また進行がんでも1割程度)もありますので、45歳を超えれば一度は大腸カメラなどを受けてください。
大腸がんと診断された場合、治療の方針を決めるためにどれぐらい進んでいるかの検査を行います。
CT検査、MRI検査、PET検査などを利用しがんの深さや離れた臓器やリンパ節などへの転移を調べて進行度を診断します。

大腸がんの治療

内視鏡治療・手術・化学療法(抗がん剤)・放射線療法などがあります。

内視鏡治療

粘膜内や粘膜下層の浅いところにとどまるがんには内視鏡で根治が可能です。
内視鏡治療には病変の大きさや形により、内視鏡下ポリープ切除術(ポリペクトミー)・内視鏡的粘膜切除術(EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が選択されます。
当院ではポリペクトミーやEMRに対応しております。
ESDを選択する必要のある大きな病変の場合は、紹介させていただきます。

手術

内視鏡で切除ができない場合は、周囲のリンパ節に転移する可能性が出てきますので、手術が必要になります。
手術では、がんの部分だけでなく、がんが広がっている可能性のある腸管とリンパ節も切除します。
がんが周囲の臓器にまで及んでいる場合は、可能であればその臓器も一緒に切除します。
最近では腹腔鏡の手術がメインとなっています。

大腸癌の写真

大腸癌の写真
下行結腸の進行した大腸癌です。

大腸ポリープ

大腸ポリープとは

大腸ポリープは、大腸粘膜の一部が隆起した病変です。
組織タイプの違いから大きく腫瘍性と非腫瘍性に分けられます。
前者は腺腫と呼ばれ、小さなうちはほとんどが良性です。
大腸がんの大部分はこの腺腫がもとになっているとされています(adenoma-carcinoma sequence)。
このため腺腫を切除していくことが将来の大腸がんを予防することにつながります。

大腸ポリープの症状

ポリープの症状としては、小さなポリープでは大部分が無症状ですが、大きなものでは便への血液の付着や便潜血が起こってきます。

大腸ポリープの原因

大腸ポリープは環境要因と遺伝要因が影響し合って起こると考えられています。
このうち環境要因としては、食習慣が特に重要です。
高脂肪の食事を好む方、食物繊維をあまり摂取されない方はリスクが高くなるので、食事の見直しをご検討ください。
なお、非腫瘍性ポリープの中には、小児に多い若年性ポリープ、高齢者に多い過形成性ポリープ、腸炎後にみられる炎症性ポリープなどがありますが、いずれも良性で、がん化することは殆どないと考えられています。

大腸ポリープの検査・診断

診断にあたっては主に大腸内視鏡検査を行います。
これによってポリープの有無を確認し、見つかった場合はその大きさ・形状・色調などを観察します。
ポリープの性状診断においては、顕微鏡を用いた病理組織学的検査などが必要となります。

大腸ポリープの治療

腫瘍性の場合は内視鏡を使って切除します。
ポリープの大きさなどにもよりますが、日帰り手術で対応できるケースが大半です。
非腫瘍性ではがん化することがほとんど無いので、積極的に切除するほどのことはありません。
ただし有茎性で大きなポリープは出血や腸重積を引き起こす可能性があるため、内視鏡による切除を行います。

大腸ポリープの写真

大腸ポリープです。
日帰りで切除しています。

クローン病

クローン病とは

クローン病は、口腔から肛門に至るまで、消化管の様々な部位に非連続性の炎症を引き起こす病気です。
特に小腸末端部に病変が起こりやすいと言われています。
若年者に多いのですが、年配の方にも起こります。
男性と女性では罹患率に大きな差異はありません。
このクローン病も厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の特定疾患のひとつに指定されています。

クローン病の症状

クローン病の症状は患者様によって様々で、侵される病変部位によっても異なります。
頻度の高い症状は腹痛と下痢で、半数以上の患者様にみられます。
発熱、体重減少、全身倦怠感などもよく起こる症状です。

クローン病の原因

原因としては、遺伝的な素因を背景に、腸管で異常な免疫反応が起こるためと言われていますが、はっきりとは解明されていません。

クローン病の検査・診断

症状や貧血などの血液検査異常からクローン病が疑われるときは、腹部エコーや消化管の造影検査、胃カメラ・大腸カメラを中心に消化管の状態を確認します。
敷石像などの特徴的な所見が認められれば、この病気と診断されます。

クローン病の治療

クローン病の治療としては、内科的療法と外科療法があります。
通常は薬物療法や栄養療法などの内科的な治療が主体となるのですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などを合併しているケースでは外科療法が必要となります。

クローン病の写真

クローン病の方の胃病変です。
画面下の方に短く横溝を認めます。
竹の節状変化です。